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「着付けってどうやるんだっけ?」
心は隣の部屋で金魚柄の水色の浴衣に響は青色の荒波模様の浴衣に着替えてきた。
響は一人で帯まで回してきたが、心は腹回りに巻く帯だけは一人でできないので軽く巻いた状態でお互い和室へ戻ってくる。
「ちょっと待て。今調べてるから」
響は本棚に入っていた着付けの本を読みながら心の背中で帯を巻く。
「なんで自分の着付けがすぐ出来て私の着付けがすぐ出来ないのさ」
「なんか難しいんだよ、1Pコントローラーと2Pコントローラー使うの同じ感覚じゃないだろ?」
「あー……確かに」
「この端を内側に入れて」
こう言う昔ながらの物はどうにも手順が難しくにっちもさっちもいかないと行ったところか響も悪戦苦闘している。
「もういいんじゃない? 柔道の帯みたいにキュッと巻いとけば」
腹を何度も圧迫されたり緩められたり、もう20分以上突っ立っていたせいで足が棒になってきたと面倒くさそうに畳に座る。
「人前でほどけても責任は取れないぞ。俺の中学時代の暗黒史を忘れたか」
意外とこう言う帯はしっかり結ばないと、すぐほどけてしまう。
「柔道着なんかでもそうだったね……たしか」
中学時代の柔道の時間、響は適当に柔道着の帯を結んでいたばかりに投げられた衝撃でクラスの前に半裸を晒す嵌めになったことを思い出す。
「お願いします」
それだけはやっぱり嫌だと手のひら返す。
「もうちょっと……できた!」
もう10分かかってようやく心の着付けが終わった。
「ふー……スッゴい疲れた」
ずっと集中していたせいで腕が痺れ、汗びっしょりになっていた。
「ちょっと小さくなったね、前まではくるぶしが隠れたのに今じゃけっこうアキレス腱が出るくらいになったかな」
足首がスースーするが、歩いてれば気にならないだろう。
「そうだな。けどもう五時回っちゃった。はやく行こう」
真夏だから空はまだまだ明るいが、既に出店は幾つも出回りそろそろ他の人も出始めている頃だろう。
「そうだな」
「下駄だしてあるよね?」
「靴箱にある」
「あった!」
下駄を履いて外へと飛び出す。
靴と違って足を全く包まない解放感。カランとコンクリートとぶつかって鳴る歯の音がとても心地いい。
「いいよねぇ。下駄のカランカランって鳴る音」
「結構いい音だよな」
「さぁて、お祭り行きますか」
「おっしゃ」
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