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第56話 1.293×10の25条kgの花嫁
太陽はもう朝日とは呼べないくらい高く登った。爽やかな青空だ。
切り拓かれやすい低山には珍しく、古代ながらのブナの木が広がる。
地をはうように大きな丸い葉を広げ、ピンク色で鈴型の花を並べるのはイワカガミの花。
だが、そんな絶景に目を向ける者はいない。
祖国爆縮作戦実行委員会の攻撃から逃れてきた人々の車列だからだ。
山肌にしたがって鋭くカーブを繰り返す道がある。
舗装はされているものの、車がギリギリすれ違えるだけの細い道だ。
樹々がすぐそばまで迫り、車のサイドミラーを曲げるほど枝が当たることもある。
その道が今、作られて以来の大渋滞に陥っていた。
車列の前に土砂崩れが居座っているからだ。
黄色い大量の土が、乗用車より巨大な塊となっている。
そこに黒いはしご付き消防車が駆け寄った。
消防車の前、バンパー部分が跳ね上がる。
中から飛び出したのは剣の先のように尖った金属の板。
それは巨大な鋤だった。
路面を削りながらの体当たりで、土砂はガードレールごとカーブの果てに吹き飛んだ。
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