第1夜

4/6
24人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
自販機が無機質な音と共に吐き出した缶を取り出し、プルタブを引っ掛けて、その黒い液体を喉に流し込む。 口の中に広がる味は、何故か異常な程に苦かった。 極度に深煎りしたかのような、そんな古臭い味が直接喉と胃に攻撃を仕掛ける。 もともとの苦さを知っているはずなのに喉に苦味が消えない。 酷く惨めな気分になった。 …本当は甘い方が好きなのよ。 むしろコーヒーなんかよりココアとかミルクティーの方が好き。 心の中でそう呟くことしか出来ないのは昔から変われない。 言わなかった事が問題だったのかもしれない。 ずっと 後から後悔しても遅いのだけど。 もう過去は過去だから。 まだ中身の残っている缶を持ったまま休憩スペースの端にある喫煙所に入る。 最近は喫煙者には居づらい御時世になったようで。 完全なる隔離された透明な四角い箱の中で、ちらほらとスーツ姿の人たちがゆらゆらと揺れる紫煙を吐いていた。 私も昔はあっちの住人だった。 女の子は吸うもんじゃないと言われてから止めたせいで、今は違うが。 それを言ったのも確かあの人だった。 曖昧な記憶の中に残るのはあの人の思い出ばかり。 忘れたくても習慣に染み付いていて勝手に出現してくる。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!