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自販機が無機質な音と共に吐き出した缶を取り出し、プルタブを引っ掛けて、その黒い液体を喉に流し込む。
口の中に広がる味は、何故か異常な程に苦かった。
極度に深煎りしたかのような、そんな古臭い味が直接喉と胃に攻撃を仕掛ける。
もともとの苦さを知っているはずなのに喉に苦味が消えない。
酷く惨めな気分になった。
…本当は甘い方が好きなのよ。
むしろコーヒーなんかよりココアとかミルクティーの方が好き。
心の中でそう呟くことしか出来ないのは昔から変われない。
言わなかった事が問題だったのかもしれない。
ずっと
後から後悔しても遅いのだけど。
もう過去は過去だから。
まだ中身の残っている缶を持ったまま休憩スペースの端にある喫煙所に入る。
最近は喫煙者には居づらい御時世になったようで。
完全なる隔離された透明な四角い箱の中で、ちらほらとスーツ姿の人たちがゆらゆらと揺れる紫煙を吐いていた。
私も昔はあっちの住人だった。
女の子は吸うもんじゃないと言われてから止めたせいで、今は違うが。
それを言ったのも確かあの人だった。
曖昧な記憶の中に残るのはあの人の思い出ばかり。
忘れたくても習慣に染み付いていて勝手に出現してくる。
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