お得意さま

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「……え?」 私は一瞬口を開けっぱなしにして先生を見ていた。 「……先生、私のことなんていいんです。そうだ、それより言おうと思ってたんですけど、すぐにでも誰かを雇わないと先生が倒れちゃいますよ」 「あ、ああ。そのことか」 先生は思い出したように言いながら、その後深い笑みを浮かべた。 「俺もちょうど話そうと思ってたんだよ」 「え?もしかして、もう決まったんですか?」 「ああ、決まってる」 「そうなんですか!?いつから?どんな方が!?」 私は思わず身を乗り出した。 先生は口を開きかけたが、視線を腕時計に落とした。 「おっと、話の続きは後で。そろそろ出ないと間に合わなくなるよ。矢島君、君に会えるのを楽しみにしてるからね。さ、急ごう」 私たちは慌てて戸締りをすると、話の続きをお預けにされたまま事務所を後にした。
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