お得意さま

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「わかってるよ」 先生は深い笑顔を見せた。 「大丈夫だよ。嫁入り前の大事な従業員だからね」 「……嫁入り前のって……大袈裟ですけど……。でも、約束ですからね!」 私の最後の念押しに先生は笑顔だけで応えると、自分が先頭に立って部屋に入った。 「矢島君、待たせたかな?」 声を掛けたのは先生が先だった。 「いえ、僕も今来たところです」 矢島さんは先生に返事をすると、身体を斜めにして私の顔を覗いた。 「霧島さん、こんばんは」 「……こんばんは。今日は私までご一緒させていただいて、すみません」 私が頭を下げると、彼は先生をちらりと見た。 「坂上先生には悪いけど、今日は君の方が主賓だからね」
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