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私はつい先ほどまであくびを繰り返していたことを思い出し、手のひらで顔を隠しながらこの場を切り上げることにした。
「すみません、じゃあ失礼します」
私が頭を下げると、彼は「お疲れさまでした」と、笑顔をくれた。
「店長さんこそ、お疲れさまです」
私はそう言ってもう一度会釈をして前を向いた。
けれど、二、三歩進んだところで振り返った。
ドアはまだ開いていた。
振り返った私に気付いた彼のシルエットがわずかに首を傾ける。
「いつもおいしいパン、ありがとうございます!」
私が言うと、
「こちらこそありがとうございます!」
と、返ってきた。
彼の表情は影になって私には見えなかった。
けれど、私は彼の声色に微笑んで帰路につく。
夏の心地よい風が頬を撫でる。
けれど、酔いで火照った私の頬は
まだ、少しも冷めてはいなかった……。
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