運命の人

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「162円です」 彼は私に告げると、小型のレジを手早く打ってもう包装にかかっていた。 私は財布を開けて小銭を探った。 俯いた顔にもこれで説明がつく。 「今日は……いつもと雰囲気が違いますね」 彼がカウンターの上から私を見下ろしながら静かに言った。 「……そうですか?」 私は思わず挙動不審に黒目を泳がせながら聞き返した。 「髪型のせいかな……」 彼に言われてハッとした。 自分が今日、髪の毛を纏めていることさえも思考から飛んでいた。 「あ、そうかもしれませんね……」 私は髪を束ねているヘアゴムに触れながら彼を上目遣いに見上げて、再び息を飲む。 髪型だけでなく、メイクも適当であったことを思い出したのだ。 彼から目を逸らし、視線をゆっくりと落としていくと、私の頬の温度が上がり、耳たぶにまで熱が伝わりかけた。
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