運命の人

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坂上先生のデスクにコーヒーを運ぶと、先生はカップをテーブルに置く私の姿を見つめている。 「……何でしょうか?」 「今日はいつもと雰囲気が違うね?」 「……え?」 私は咄嗟に腕を後ろに回してまとめた毛先に触れた。 今朝のパン屋での出来事を思い出し、必要以上に赤面する私に先生は「よく、似合ってるよ」と笑った。 「……そうですか?」 私がぎこちない笑顔で聞き返すと、先生はゆったりと大きく頷いた。 そして、コーヒーを一口飲むと、わずかに間を置いて話題を変えるように口を開いた。 「霧島君、今日なんだけど……」 先生はそこまで言うと、何かを思い出したように急に背筋を伸ばして真顔になった。 「霧島君、今日の遺言書の相談、場所はどこだったかな? たしか変更があったよね?」 いつの間にか先生は手にしていたカップを置いて手帳を開いている。 私も席に着いてパソコンのデスクトップにあるスケジュール表を急いで開いた。
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