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矢島さんと別れた後、私は何か大きな義務を果たしたような脱力感に襲われていた。
「お疲れさま」
安堵に肩を落とす私に坂上先生が労いの声を掛けてくれた。
「いえ、すみません。いろいろと気を遣わせてしまって」
「いや、こっちこそ悪かったね。今回ばかりは断れなくて」
「いいんです。先生のお立場もありますから」
私が笑顔を見せると、坂上先生も微笑んだ。
「……それより、矢島さん、気を悪くしてないでしょうか? 私ももっと積極的になれるといいんですけど……」
私は笑顔の後で小さなため息をついた。
「気にしなくて大丈夫だよ」
先生は私を安心させるようにゆったりと言った。
けれど、その後、まるで独り言のように呟いた。
「でも、気を悪くするというよりは、ちょっと彼の闘争心に火を点けちゃったのかもしれないな……」と。
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