運命の人

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先生の言葉がはっきりと聞き取れなかったので、私が聞き直すと先生は「なんでもないよ」と、話を切り上げた。 「それならいいんですけど……」 私は身体から力が抜けていくのに任せて肩を落とした。 もちろん、矢島専務は素敵な人だ。 少々強引なところは彼の長所でもあるだろう。 彼の表情や言葉にはいつも自信がみなぎっている。 私の理想の男性は 男らしくて優しくて、頼もしい人。 ともすると、彼は私の理想とも言えるのだが 私の気持ちはどうしてか動かない。 しばらく恋をしていないせいで、ときめき方も忘れてしまったのだろうか。 ドキドキして、その人のことばかり考えて、そわそわして、落ち着かなくて、夜も眠れなくなるあの感覚。 私はその感覚を思い出そうとしたが、意味のないことだと悟って考えるのをやめた。 思い出して味わえる感覚ではなかったことだけは わかっていたから。
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