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「先生、あの方は……」
私が彼のことを聞こうとすると、先生はもう一度腕時計を確認して脇に抱えていた書類を手に持ち直した。
「ごめん、また先延ばしで悪いけど、続きはまた帰ってから。君が言う通り、僕も誰かに頼らないとそろそろ倒れそうだから」
冗談めかして言いながら先生は身体の向きを変える間際に「あ」と、何かを思いついたように私を振り返った。
「君は早く帰って、二人でじっくり自己紹介でもするといい」
先生は笑顔を残して奥の控室へと行ってしまった。
「じっくり自己紹介って……お見合いじゃないんですから……」
私は独り言を言いながらも、事務所が心配になって足早に事務所へ引き返すことにした。
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