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「今日はお気に入りのパン、なかったんですか?」
事務所に戻ると平岡さんについ先程と同じ言葉を向けられたので驚いた。
「いえ、ちゃんとありましたよ」
私は袋を見せてその中身を説明をした。
「そうですか。ならいいんですけど」
「平岡さんの分も買ってきた方がよかったですか?」
「いや、僕はもう出掛けるから。適当に外で済まします」
彼が鞄を持ち上げた。
「あの、平岡さん」
私は見送る前に彼を呼び止めた。
「はい、何ですか?」
「あの……その敬語。私には使わないでいただけますか? 歳も下ですし、なんだか落ち着かなくて」
「そうですか。……あ。すみません。あ、ごめん」
彼を見ているうちに笑顔が戻ってくる。
彼はそれが狙いだったのか、「じゃあ行ってくるね」とすぐに切り替えて出掛けて行った。
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