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ほんの数秒立ち止まり、結局私は傘を畳んで店の中に入っていった。
「いらっしゃいませ」
昼間とは違い、静かな声が耳に届いた。
店内には私の他に客はいない。
静けさの増した店内で調理場には彼の姿しか見えなかった。
「……こんばんは」
私は頭を下げた。
「あいにくの雨ですね……」
いったい何をするためにやって来たのかわからずに、私は彼に一言呟いた。
「本当にあいにくです。雨の日は客足が遠のいてしまいますから」
彼はそう言って店の正面のショーウィンドウから外を見つめた。
そしてその瞳に変わらず降り続く雨の残像を残して私を見た。
「霧島さんも今日は来てくれないのかと思いましたけど……」
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