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いつも穏やかな平岡さんの眉間が動いた。
私は自分の嘘を打ち明けることもできずに二人の間をおろおろと落ち着かない。
「じゃあ、また来るよ。坂上先生によろしくね」
彼は私に笑顔を見せて歩き出すと、すぐに足を止めて振り返った。
「霧島さん、今度は二人きりで食事に行こうね」
彼は最後に私の隣の平岡さんに会釈をすることも忘れなかった。
そして、私が返事を返す前に再び歩き出した。
「霧島さん、行こうか」
矢島専務の後姿を見送り、茫然とする私に平岡さんが言った。
「平岡さん……あの……」
「とにかく事務所に戻ろう。話はそれから」
彼は小さく息をつくと微笑んだ。
私はその笑みに苦笑いを返し、彼の後に続いてビルの階段を上がった。
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