第10話【結婚相手】

結婚相手

２６歳になって、願望はあるのだから今から付き合う相手が結婚相手になることだって自然な流れだろう。

そんな中で最近私の瞼の裏に現れるパン屋さんの……彼。

パン屋どころか飲食店業界のことは何もわからない。

だけど、平岡さんなら……。

坂上先生を見ているので、彼の収入も将来の展望も、それほどかけ離れることなく思い描くことができる。

弓子に悪いことをしてしまった。

そして、世間知らずでいい子ぶった自分を反省してため息をつく。

これが弓子の言っていた気持ちと条件なんだと思った。

事務所の前の傘立てに水滴をはらった傘を差し込む。

柄の太いものが先生で、見慣れない長くて細身の傘が平岡さんだ。

それを見つめて小さく唇を噛むと、鼻からため息がかすかに漏れた。

先程晴れた心が朝に滴る雨で濡れていく。

私は深呼吸をして肩を揺らすとドアノブに手を掛けた。