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「でも……彼と出会ったじゃない」
「まあね……。どっかの社長とか御曹司とか狙ってたんだけどね」
弓子はここでやっと冗談を交えて笑った。
「……だから、美織には自分と同じであって欲しい……なんて、勝手なこと思っちゃったの。結婚相手を探せってね。そうすれば、嫌でも目が行くじゃない? 条件てやつに」
弓子は自嘲気味に笑った。
「でも……あの時既に、美織の中にはパン屋さんがいたのね」
「そんなことないよ……」
「よく言うわよ、毎日お店に顔出しといて」
私は弓子の言葉に返す言葉を失った。
「美織のそんな顔、初めて見た」
私が顔を伏せると、彼女は素面(シラフ)だというのに酔っぱらいのように私をからかい、まるでビールのように麦茶を喉に流し込んだ。
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