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すると、弓子はまるで私の反応を楽しんでいるかのようにすっかり明るくなって言った。
「いいんじゃない? ゆっくり行けば。焦ることないんだから」
私は少し驚いた。
彼女らしくない言葉だと思ったからだ。
いつもの弓子なら「とっとと告白してきなさい!」とでも言いそうなものだ。
だけど、きっと、これが弓子の本心なのだろう。
「うん、そうする……」
私にらしくない本心を覗かせた彼女に、私も素直に返事をした。
すると、それを待っていたかのように弓子はソファから立ち上がった。
「さーてと、お土産ももらったし、今日は退散するわ。あ、今度はフレンチ、おごってよね」
弓子は食パンの入った袋を目の高さまで掲げた。
「じゃ、愛しの君の腕前、味合わせてもらうね」
彼女は冷やかしながら言うと玄関に向かい、いつも通りの笑顔を残して帰って行った。
「またねー」と、大きく手を振る彼女に私は心から安堵し、静かにドアを閉めた。
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