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彼が出て行ったばかりのドアが静かに閉まる。
一人になった私は深い息を吐き出した。
すると、忘れかけていた空腹感が襲ってくる。
けれど、事務所の留守を預かる私は空腹感と戦い、坂上先生の戻りの時間を気にしながらやりかけの書類に手を掛けた。
坂上先生はまるでどこかから私を見ているかのように、それから少しも経たないうちに帰ってきた。
「お疲れさまです」
「お疲れさま」
彼は私の顔に視線を残しながら席に着いた。
「ちょっと疲れてるな?」
「え? いえ……少しお腹が空いただけです」
「そうか、一人だったから買いに行くことも出来なかったんだな?」
「いえ……まあ、先生を待ってはいましたけど」
「遅くなって悪かった。もう少し早く帰れるはずだったんだけどね」
先生は言いながら鞄から書類を取り出し、デスクの上に積み上げた。
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