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鼻をすすったのは私じゃない。
それなのに、鼻の奥がツンと突かれたように痛んだ。
目頭は急激に熱を帯びる。
店の角を曲がる時、私はもう一度彼女に目をやった。
彼女は壁に手を付くとよろめきながら歩き出した。
彼女の後姿が涙を拭うのを見て、私は静かに視線を落とした。
彼女の気持ちが彼に受け入れられなかったことに、
安堵と落胆が入り混じった。
彼女の姿が自分と重なる。
彼女も私も彼にとっては同じパン屋の『お客さん』。
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