自惚れ

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私を気遣ってくれたのか、待ちあ合わせの店は私の自宅からそれほど離れおらず、かと言って、私もまだ一度も入ったことのない穴場だった。 私は一度自宅方面へ向かうため通勤経路を逆から辿る。 パン屋の店内はブラインドが開けられ、中の様子がわずかにうかがえた。 トレイを持って店内を巡る客がガラス越しに数人見えた。 パンを選ぶ客の顔は明るく、みんなが笑顔だった。 それを見て綻ぶ顔を伏せ、私は路地へ入った。 裏口に差し掛かると、私は小さな声をあげて立ち止った。 彼が裏口から姿を見せたからだ。 彼は両手に段ボールやビニールやらゴミを抱えるようにしてドアから出てきたところだった。 「あ、霧島さん」
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