自惚れ

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事務所に戻ると坂上先生が私の機嫌を窺うように見つめてくる。 「今日は……好みのパンはなかったのかな?」 「そんなことないです。新作までいただきましたし……」 「それならいいんだけど。ゆっくり食べていいよ」 彼は私の顔から視線を逸らし、デスクに向き直った。 私は二人分のコーヒーを淹れて自分は昼食をいただくことにした。 最初に手にしたのはウィンナーパンだ。 彼の言うとおり、数あるパンの中で私の中でのロングセラーだ。 迷ったときや焼きたてが並んだ時にはほとんどといっていいほどこれを手に取ってしまう。 私の大好きなパンだった。 普段ほとんどレジには立たない彼がそのことを知っていたとなると、自分が多くの客の中の一人であることに違いはないが胸がざわつく。 私はパンが温かいうちに味わい、次に新作のパンの包みを開けた。
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