自惚れ

11/30
前へ
/30ページ
次へ
白パンは表面の皮の焼き目がないのでパン屋の中では一番柔らかい生地だ。 それが焼きたてなのでまるで綿菓子のようで、中からじわりとチョコレートが溶け出してくる。 ふわりと柔らかくて、優しく甘い。 宮田さんの言葉を思い出す。 『このパン、霧島さんみたい……』 最後の一口を口に入れるとすぐに溶けてなくなってしまいそうになる。 私はそれをゆっくりと噛みしめた。 こんな人になれたらいいなと思った。 出来ることなら彼にとっての。 ……そんな人になりたかった。 「……坂上先生、近いうちに矢島テクノスの矢島専務にお会いする機会なんて……ありませんよね?」 気付けば私はそんなことを口走っていた。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

280人が本棚に入れています
本棚に追加