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「いつもありがとうございます」
緩んでいた顔がその声に再び緊張して硬くなる。
私が完全に振り返る前に彼は私の隣へ天板を持ってやって来た。
「霧島さん、ウィンナーパン、よく買ってくださいますよね?」
店長さんだ。
彼は私のトレイを遠慮がちに覗きながら微笑んでいた。
心臓が最初に一拍大きく跳ねると、速いテンポで私の内側から胸を叩く。
私の返事を待つ間に、彼は天板のパンを少し離れた棚に並べ始めた。
「一番……好きなパンですから……」
遅くなった返事は唇まで伝わる鼓動のせいで少し震えた。
店内には他の客もいるはずなのに、すべてのざわめきが消え、
私には自分の鼓動の音しか聞こえなかった。
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