自惚れ

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彼は天板から最後の一つを私のトレイに移した後、 「いらっしゃいませ」と、店内に入ってきた新しい客に声を掛けながら急いで調理場へ入っていった。 リング状の白い生地の中にチョコレートが入っているパンらしい。 中に詰められたチョコレートが薄ら透けて見えそうだった。 私はもう一度そのパンが並んでいる商品棚を見た。 棚には『天使のチョコリング』と書かれたポップが『只今焼きたて』の文字と一緒に並んでいた。 たった今も別の客がそのパンをトレイに乗せたところだった。 私はそれを横目に見ながら精算途中の中年女性の後ろに並んだ。 先程まで長かった列も、いつの間にか落ち着いていた。 「いつもありがとうございます」 レジカウンターには宮田さんがいた。
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