名前も知らない

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「……あ、ああ、それか……」 彼には何のことかわかったようだ。 彼は以前私に言ってくれた。 今の事務所に入る前から坂上先生から私の話を何度も聞き、会う前から私のことを…… ……好きになってくれていたと。 「平岡さんこそ、私のこと何も知らずに……」 「それは、先生に人柄をよく聞かされてたからだよ。名前だって知ってたし」 「名前って……そんなに重要ですか?」 「え?」 「その人とはそれほどたくさん話したことはないですけど……。でも、その少ない会話や、見てるだけの彼の素振りから、彼がどんな人柄か少しはわかっているつもりです」 私の頭の中には彼の笑顔が蘇った。 「霧島さん……」 「……すみません」 つい口調が強くなってしまった。 「あ、いや、俺こそごめん……」 二人の間に、感じたことのない重い空気が流れた。
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