名前も知らない

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「……ごめんなさい」 「もういいって。そんなに謝られると悲しくなる。僕を選ばなかったこと、後悔するかもしれないけどね」 彼は笑った。 私の目には涙が滲んだ。 自分が本当に正しい道を選んでいるのか不安にもなる。 彼の言う通り、店長さんとのことはどうなるかわからないし、上手くいく可能性なんてないのかもしれない。 今、平岡さんからの告白がパン屋の彼と出会う前であればどれほどよかっただろうか。 私は何の迷いもなく彼に返事をして弓子に自慢だってしてたかもしれない。 そんなずるいことまで考える。
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