名前も知らない

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そして、その夜、約束を果たすべく、私はダイニングバーで夕食を共にしていた。 彼はテーブル席が空いているにも関わらず、カウンターに席を取り、私たちは日中のように隣合わせで並んでいた。 「向かい合わせよりも近くで話せるから」 そう微笑む彼の肩と私の肩の距離は15センチ。 その距離に照れながら「そうですね」と、伏目がちに返事をした。 料理を注文し、ほんの少しのアルコールをプラスした。 最初はたわいもない話から始まった。 大きな会社ではないので私には同僚や同期と呼ばれる仕事仲間がいない。 仕事上相談できる唯一の相手が平岡さんになる。 アルコール成分に助けられ、私はぽつりぽつりと仕事で感じている疑問や不安を彼に話していた。 彼は面倒がる様子もなく、一つ一つ丁寧に答えてくれた。
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