名前も知らない

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「俺、やっぱり君が好きだ。ちゃんと……付き合いたいと思ってる」 彼の真剣な言葉に私はグラスから手を離し、膝の上で握りしめた。 平岡さんはいつだって誠実で優しくて、大人だ。 だからこそ、私も真剣に答えなければならない。 鼓動が間隔を置かずに打ち乱れる。 私は浅く呼吸して口を開いた。 「……すみません。私……」 一度は決意したもののその先が続かない。 もどかしくなりながら唇を小さく噛むも、なかなか隙間が開かない。 けれど、沈黙が長引けば長引くほど唇は硬くなり、上唇とした唇がくっついてしまいそうだ。 唇のほんの数ミリの隙間をつくるのに、全身の力を振り絞らなければならないみたいだ。 そして、やっと唇が開いた。
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