名前も知らない

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「知っていることは……早起きで……少し照れ屋で……優しくて……いつも笑顔で……」 ……パンを焼ていること。 「だけど、それしか知らないんです。名前も……年齢も」 「名前も知らないの?」 彼はさらに驚いたのか今度は眉間に皺まで寄せた。 「……はい」 私が知っているのはパン屋の店長さんと言うだけだ。 彼のことは『店長さん』としか知らないし、そう呼んだことしかない。 「わかんないな……」 彼はそう言ってグラスに口を付けた。 「そういうのって、好きって言うのかな? 中学生や高校生ならまだわかるけど。ごめん、こんな言い方して。でも、ホント、よくわからなくって」 彼は首を傾げながら髪を掻き上げた。
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