名前も知らない

9/30
前へ
/30ページ
次へ
「この前の彼女、君の友達だっけ? 彼女は結構現実的な感じだったと思うけど」 彼が言っているのは弓子のことだ。 「確かに……彼女は現実的だし、最初は全然理解してもらえませんでしたけど」 「まあ、そうかもしれないよね。僕もよくわからないよ」 「……そうですか?」 「普通はそうじゃないかな」 「でも、弓子……その友達は今は応援してくれてます」 「彼女だって友達がどうしてもって言うなら、応援せざるを得ないよ、きっと。それが本意じゃなくてもさ」 「そんなこと……ないと思いますけど」 「俺にはわからない。名前も知らない相手を好きになるなんて」 彼は再びグラスに口をつけ、首を横に振った。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

268人が本棚に入れています
本棚に追加