昔の彼女

27/32
前へ
/32ページ
次へ
「霧島さんも今日は来てくれないのかと思いましたけど……」 俺はガラスの向こうに目をやったまま呟いた。 こんなことを言うつもりなどなかったのに、 偶然に訪れた彼女と二人だけで話せる機会に俺は少しだけ大胆になっていたのかもしれない。 すると、彼女が急に謝った。 「すみませんっ。今日のお昼は……」 「あ、すみません。押しつけがましく……。そういうつもりじゃなくて、毎日来てくださってるとつい……」 俺が慌てると彼女が「……つい?」と、首をひねる。 彼女と目が合う。 ……つい…… なんて言おうとしたのだろう。 俺がすぐに返事をしないので、彼女が沈黙に耐えられなくなったのか、俺の背後を指差した。 「あ、あの。その食パン、いただいてもいいですか?」 今日の残りの食パンだ。 棚には二斤残っていた。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

261人が本棚に入れています
本棚に追加