昔の彼女

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「……一斤でいいですか?」 俺は彼女に他の客と同じように確認しながらも、疑問に思っていた。 彼女は……一昨日も一斤買っていたはずだ。 覚えていたのはその日は予約だったからだ。 お昼を買いに来た時点で、帰る時に再び取りに来ると言って、角型の食パンを五枚切りで予約をもらったのだ。 彼女の定番は角型五枚切り。 そのつもりで何枚切りにするかと尋ねると、彼女は珍しく「八枚」だと答えた。 「サンドイッチでも作られるんですか?」 思わず聞くと、彼女は「あ」っと、小さく洩らし、 「それもいいですね」と笑った。 彼女の本来の目的はなんだったのだろうか。 もしかしたら…… 彼女も店に来なかったことを気にしてくれたんだろうか。 俺が淡い期待を抱きかけた時だった。 二人の時間に割って入るように ガラス扉が鈍い音をたてて開いた。
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