彼女と彼ら

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「いらっしゃいませ」 スタッフ全員が挨拶したのは例の長身の男だった。 こうやって客観的に見てもいかにもインテリで悔しいことにイケメンだ。 その証拠にレジカウンターで挨拶する宮田さんの声のトーンがいくぶん高い。 その声が言った。 「あ、霧島さん。今日は珍しく一緒に来てくださったんですか?」 彼女の言う通り、男の背中から霧島さんが顔を出した。 「……はい。お昼、遅くなっちゃったんで一緒に。これ以上遅くなると昼食じゃなくなっちゃいますから」 彼女は宮田さんに説明した。 そして、いつの間にかトレイとトングを手に彼と店の中を歩き始めた。 「何にしますか?」 「霧島さんは?」 そんな会話が聞こえてくるような気がしたが、実際に耳には届かない。 それが二人の距離との差かと思うと俺は二人から目を背けるしかなかった。
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