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彼女の来店を待ち望んでいるはずなのに、
それが一人じゃなく彼と一緒だと、
嬉しさが半減……どころか、作業に集中さえ出来なくなる。
俺は手元の生地をザクザクと力を入れて切り分けた。
彼女たちがパンを選ぶ途中、冷蔵コーナーへ近付くと、偶然にも彼女と目が合う。
俺は平静を装って、いつも以上に冷静な表情で彼女に会釈をした。
すると、彼女も会釈を返した。
彼女がどこかよそよそしく感じるのは気のせいだろうか。
俺はそう思いながらも雑念を振り払うために首を小さく振った。
すると、横から橋本さんに呼ばれた。
「店長、オーブンの中、クリームパン焦げ目が強いかもしれませんよ?」
オーブンののぞき穴から中を覗く彼女が、中を覗いたまま手招きした。
「硬くなるかな? 出そうか」
俺も彼女の隣から中を覗く。
すると、彼女はそれには返事をせずに
「霧島さんと彼……お似合いですね」
と、オーブンの中から目を逸らさずに言った。
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