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「出すよ」
今度は俺がそれに答えず、彼女を後ろへ遠ざけオーブンを開けた。
取り出したクリームパンは少し焦げ目が濃いがちゃんと売り物になる。
ちょうど……焼きたて。
一瞬、彼女に声を掛けようかと迷ったが、
フロアを振り返ると、そうすることが出来ない事態が起こっていた。
彼女が……
彼とは別の男と話していたからだ。
彼女は彼のことを専務と呼んだ。
彼女のかしこまった態度からするに、彼女にとっては顧客なのかもしれない。
男はトレイも持たずにポケットに手を入れたまま彼女の前で立ち話をする。
「もしかして、この間言ってた『彼氏』って、彼のこと? 君の彼、弁護士なんでしょ?」
彼の性格を表すものなのか、男の声はフロアと調理場に行き渡った。
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