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怪しい気配
ここでの生活も大分慣れた気がするという事は、任務も順調にこなし、命もあるという証だ。
家計は以前と違いかなり余裕を持てているが、その代わり死が訪れる危険と背中合わせなのを母だけは知らない。
パン工場で勤務し寮という名のマンションまで準備してくれるいい会社で、絶対に定年まで続けて欲しいと純粋に思っている。
勤務時間は夜勤で泊まりがあるにも関わらず、不思議に思わない適当な性格は、苦笑いするしかないが助かってもいる。
母子家庭で貧困な生活の上、姉妹が高校を中退してるという事もあり、一変した今の生活からどうあっても離れたくないみたいだ。
月に二万五千円の負担で最新家電と各部屋にはテレビとパソコンに加え、念願だった軽自動車も手にし、子の脛をかじりあげているドラム缶体型の母。
次のおねだりの品は『最新の草刈り機』で、付箋がついたカタログをいつも見せつけられている。
母の実家は山奥で祖父母は既に他界しているが、誰も帰らないボロ家と、畑の面倒を見るのが唯一の仕事みたいな年金生活者。
作業系をメーンに手伝わされるのは、細いのに体力も力もある妹の瑠里だが、お礼の一つもなく休みの日に草刈りや家周辺の溝掃除に屋根の張替えとコキ使われている。
挙句に老朽化も進んでおり、何かと出費が嵩むのもネックだが、イザリ屋で働き始めてからの給料は月に四~六日の出勤で二百万円程。
仕事内容は『人ならざる者の始末屋』だが、他言無用のルールで母にも勿論秘密にしている。
パン工場に姉妹で面接に行き、ひょんな事から今の仕事に就いているが、選ばれた者しか出来ないのも事実だ。
住まいは寮なので工場のすぐ近くにあり、表の仕事はパン会社といっても本社兼工場で、製造もしているので一般で働いている人も多い。
私達の表向きの部署名は『品質管理』という名前だが、未だに何をしてるのと聞かれても上手く答えられない。
裏稼業は基本グループで行動するので、攻撃系と防御系と救護系が一チームに入って執行役として動いている。
役割は現場に向かい依頼のあった標的を消滅させる事。
だが事前に偵察役が下調べをし、依頼内容が本当に間違っていないか確認され、報告データを元に執行をしている。
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