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「初めまして、藤原紫苑と申します」
背がスラッとして品のある顔をしているが、つなぎにある刺繍は金なので、この人も審査をする側の人だと思う。
そして私が感じた気配の張本人だ。
「は、初めまして、新人の月影百合と申します」
更に宜しくお願いしますも付け加え、きちんとお辞儀をして部屋を出ると、振り向かずに歩いた。
通路を通り受付を目指し、走りたい気持ちをグッと抑える。
社長とのトレーニングルームに差し掛かった時、不意に腕を掴まれビクッとして立ち止まった。
棒立ちになった目の前で静かに扉が開き、声を出せない状態で背中を押され中に入った。
助けも呼べないし機械的に扉が閉まるのを見ると、もう諦めて腹を括るしかなく、室内が明るくなるタイミングで藤原さんに質問をされた。
「どうして気付いたんです新人のアナタが?現場経験も少ないし、刺繍も無色で滋レベルにだって気配を消すとバレないのに」
「さぁ……ただの勘なんで」
「現場だけでなくここでも気付いたという事は、勘だけでは片づけられませんね」
双棒に手を置いてる彼はとても不気味な顔つきをしてるのに、こちらは逆に落ち着きを取り戻していた。
ふと手首を見るといつもは肩甲骨辺りに出ている刻印が、何故か浮かび上がっている。
「片づけ易いチームから選んだつもりなのに、監視役が動く事になるとは……」
「分かります、ウチには鈍そうな親族が居ますもんね、体型からしても狙いやすそうです」
「この商売はもっと上手く行くんですよ、今は信用を大事にしてイチイチ手間をかけてますが、あんな奴ら皆殺しにしても全く問題ないのに」
苛立ちのこもった表情を見ると、社長を含め立花の関係者すべて葬りたい位の気迫を感じる。
「新人なんで分かりませんけど、今のアナタを見てると、執行する時の標的達と同じ表情に思えます」
直後彼の双棒から刀が伸びたが、パァンッと腕ごと弾き返すと同時に、私の前には稲膜の透明の壁が天井まで届いていた。
「お前なんで双棒も持たずに……それにイザリ眼まで使えるのか!」
「言い忘れましたが、その鈍そうなチームメイトからむしり取ったサプリ飲んでるんです、持続性は無いかもしれませんが」
少し後ずさりをして距離を保たれると、今度は相手が稲膜の壁を広げてきた。
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