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「でも所詮無色で私には敵いませんよ?防御の壁は厚そうですが、次は突き抜けますので」
今度はかなり大きな刀で、草刈り機のような回転を加えて襲いかかって来た。
そして追い打ちをかけるように、小さなナイフのような刃物も素早く複数飛んでくる。
キィーンと金属音が室内中に響くと、いつも双棒から出している針金みたいな武器ですべて弾き飛ばした。
「言い忘れその二なんですが、私は攻撃タイプでこんな物も使えます」
「馬鹿なっ、その武器は社長しか使えない筈……」
「新人だって殺されると思ったら必死になるわっ!舐めんなよ先輩!」
こちらから攻撃に入ろうと全力で意識を集中させた瞬間、マイクを通して嫌な声が聞こえてきた。
「スト――ップ!」
『げっ、この声はキツネ!』
社長とトレーニングする時は、いつも上のガラス張りの部屋からパネルを操作して私達を見下ろしている。
条件反射で上を向くと目を線のように細めている社長の姿が見えたが、ウチの妹曰くキツネの皮を被った死神だと例えていた。
「本当に恐ろしい般若ですね、金刺繍を相手に殺してしまいそうでしたよ」
「社長まさかとは思いますが、見ていて助けなかったって事ないですよね」
「勿論そんな事はしませんよ。紫苑、双棒を捨てて壁を向いて貰えますか」
静かだがとても威圧感のある低い声で、いつもの悪ガキ老人ではなく、代表としての威厳もあった。
藤原さんは諦めたように跪き、黙って壁の方を向いていたが、社長が降りてくるまでの間に彼の双棒を遠くに蹴っておいた。
念には念を入れるのがこの職場では必要だと日々実感している。
「利害が一致しないのは残念な事です、間違った方向へ進めば私だって正されますからね」
藤原さんの背中を見て口を開く社長の目は、冷たくて……悲しそうにも見えた。
「さて百合さん、この部屋は監視役に包囲されてるので、邪魔者は退散して後はお任せしましょう」
何処に誰が潜んでいるか感じ取れないが、藤原さんを残したままで部屋を後にした。
通路を少し歩いた部屋に案内されると、コーヒー持って来ますと言われ、ポツンと置き去りにされた気分だった。
『あの人、どうなるんだろう……』
想像すると段々ブルーな気持ちになってきて、頭の中には抹殺の二文字が浮かび、社長が戻って来るとコーヒーをゴクゴク飲んだ。
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