夜のかき氷大会

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夜のかき氷大会

心配そうな表情の瑠里を安心させようとしたが、少し気になる事があり、残って資料を見る事にした。 「心配しなくても大丈夫、でもちょっと気になる事があるから、木村さんに会社の本見せて貰ってから帰るね」 「ちょっと、般若探偵百合とか止めてよ?関わらない方がいい」 ネーミングは気に入らないが、妹に先に帰るよう伝え、木村さんに頼んで数冊ピックアップし読ませてもらう事にした。 何故かあの違和感が気になって仕方がないが、出来る事といえば本で調べる位だ。 開いてみても会社の歴史やランク付け、道具の説明が分厚い本に書いてあるだけで、以前も何ページも飛ばして読んだ本だ。 何かヒントになる言葉でもないかと、受付後ろの机でパラパラ捲っていると、金刺繍で啄の兄の滋さんに声を掛けられた。 「百合ちゃんどうしたの?」 「こんばんは、ちょっとお勉強です」 誰も信用してはダメという言葉に従い誤魔化したが『誰も』という事は、田村さんもリーダーも社長もすべて含まれるのだろうか。 「なんか大変みたいだけど、良かったらこっちに来ない?」 誘われて入った部屋には知らない人が三十人位いて、皆でかき氷を作って食べていた。 『なんだ?この集まり……』 大変だと言いながら緊張感のない空気を不思議に思っていると、本当は昇格試験があり男性達は金刺繍を受ける筈のメンバーらしい。 トラブルのせいで急遽中止になったが、審査をする人も含めせっかく集まったので、かき氷大会に変更されたらしい。 「ほら、暑いし甘い物だから女子も好きでしょ?」 「――はぁ、まぁ」 自分も監視役の対象に入ってるのに、この落ち着きようが逆に恐ろしいが、とりあえず流れで列に並び順番が来るのを待っていた。 「小豆と練乳で……」 見た事もない人に注文をし滋さんを探すと、別の人と話していて完全に放置されたが、意外と美味しそうなので適当に床に座り氷をシャクシャク突き始めた。 何口か食べていると、急にある気配を感じビクッと身体が強張った。 『この感じだ……』 怖くて顔を上げる事は出来ないが、確実にあの時の気配を持つ者がこの部屋に居るのが分かる。
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