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自由奔放で誰にも縛られないエリカ。
そんな彼女は、誰よりも人の心を読むことが得意だった。
僕の腕の中で振り返ったエリカが顔を上げる。
ニコリと、瞳が心の奥底からあふれる笑みを浮かべた。
その笑みが輪郭をぼかして、僕の唇をほのかな温もりがかすめていく。
「大好き。愛している。
だから、サヨウナラ」
はっと目を覚ます。
その瞬間、目の前を金魚の尾ひれが通り過ぎていったような気がした。
「……太一?」
妙に遠くから聞こえる声に、動きの鈍い首を動かす。
そこには母さんがいて、大きく見開かれた瞳は僕の一挙一動を食い入るように見つめている。
「…か……さ………?」
母さん、と呼び掛けたはずなのに、まともな声が出なかった。
口元に呼吸器が当てられていると分かった時には、弾かれるように席を立った母さんが廊下に駆け出している。
「太一が!! 太一が目を覚ましたんですっ!! 先生を……っ!!」
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