宵闇金魚

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 頭の回転が鈍くて、ここがどこなのか、どうしてこんな場所にいるのか分からなかった。  僕が分かったことは、ただ1つ。  瞳を閉じて、あの人混みの中に真っ赤な金魚帯を探す。  だけど僕の視界に、金魚帯の彼女はいない。  今までどんな人混みの中でも見つけられた彼女が見つからない。  ……僕を置いていったんだね、エリカ。置いてかないでって、いつも泣いていたくせに  頬を温かい雫が零れていくのが分かった。  その温もりは、彼女が最後に触れた唇の温度と似ていた。  ……こんな時まで僕の言うことを聞いてくれないなんて、エリカらしいよ  次々と溢れる雫は留まる気配がない。  エアコンで冷やされた空気の中、零れ落ちる雫だけがあの夏祭りの宵と同じ熱をはらんでいた。 《 END 》
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