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「太一!」
はっと目が覚めたような気がした。
うだる熱気に思わず目をしばたたかせる。
僕は人混みの中に立っていた。
目の前には大きな朱色の鳥居と、その向こう側に続く屋台の群。
道行く人々は思い思いの浴衣に身を包んでいて、楽しそうにそぞろ歩いている。
「何ボーッとしてるのよぉ? 置いてくよ!?」
その人混みの向こうから声が響いた。
どんなざわめきの中にいても僕の耳にだけは届く、特別な女性(ヒト)の声。
「エリカ?」
僕は人混みの中に目をこらしながら、鳥居を超えて一歩前へ踏みだした。
そんな僕の視界の隅で、夜目にも鮮やかな赤い金魚帯が揺れる。
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