第2章 サングリア

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約束した日の午後は、傘を差すほどでもない、小糠雨が地面を濡らしていた。 待ち合わせの駅前で、軽くクラクションが鳴らされる。 キョロキョロする俺に、颯爽と現れたのは紺の外車。 外車特有の、深いエンジン音。 (すげぇクルマだな…誰が乗るんだよ…) 「こんにちは」 パワーウインドウが下がると、乗っていたのは前島先生だった。 俺はすかさず大人モードにスイッチして、直立不動の姿勢をとった。 「今日はどうもありがとうございます! どうぞ、よろしくお願いします!」 「どうぞ、狭いですけど」 イヤミか。  ハンドルを握る先生は、ロイヤルブルーのポロシャツと、白のチノパン。 半袖から見える腕の筋肉と、襟元からのぞく鎖骨は、男から見てもセクシーだ。  俺は全俺の好感度ランキング上位のコーディネートで遜色はないつもりだが…。 こんなスタイルで、かつ嫌味がない男はあまり見たことがない。  それは、きっと、身体つきの均整が取れているためだろう。  案の定、運転もスムーズだと…イケメン要素しかないぞ。 「どんな奴が乗ってるんだよ、みたいな顔してましたよ、先生」 くすくす笑う前島先生。 「いや、いやぁ…そりゃ、かのシュウゾウ・マエシマのご子息であらせられるから…外車でも、おかしくないっすよね…」 ワクワクと緊張と喜びで、すっかりテンパっている俺。 「俺なんて、ホンダのバイクですよ。型落ちの…」 前島先生は微笑みながら、 「ホンダのバイク…いいじゃないですか。本田宗一郎のスピリットが、まだ息づいてますし。そういえば、F1も復活しましたよね。僕は好きです…」 ボクハ…スキデス… そこにわずかばかりの蠱惑的な響きがあったことに、その頃の俺はまだ気づいていなかった。  
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