第2章 サングリア

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「教師は飲んべえと聞いてますが、本当ですね」 そう笑いながら、どんどんワインを勧めてくる、恐ろしいオッサンだ。 さっきの暗い顔つきは一体何だったんだよってくらい、切り替えの良さも世界クラスだ。 「いやあ、あれこれ、美味すぎて止まらないんですよ。このオイル漬け! たまりません」 どうやら「アヒージョ」という一品らしい。 「父さん、生ハムってまだあったよね」 「祐、あとガーリックトーストと、ナッツ系も頼む」 すっかり気持ちよくなった俺だったが、ふと時計を見る。 げっ! 十時過ぎだと! マジか? まずい! スマホを見ると「着信アリ」が五件… ご、五件… 床が抜けそうなくらい、力が抜けた。 尚人だ…! クッソ…気づかなかった! 「ちょ、ちょっと、失礼します」 うわ…中座したものの、足に来ている! ふらふらしながら壁伝いに廊下へ出て電話をかけた。 数回コール…つながった! 「もしもし? 尚人?」 「…」 うっわー無言… 「ごめんよ…」 「…おせーよ。全然出来上がってるよ、ユキ」 「たまには許してくれよ…悪かったよ…あのさ、今日はタクシーで帰るからさ、玄関のカギは開けといてよ」 「もう、俺は明日模試だかんな。静かに帰ってきてよ! 俺はもう寝る!」 そうだ、尚人は明日模試だ…! マズイぞ… 彼の学業のペースを、決して乱してはいけない! それは俺の、ポリシーだ! 二人の元に戻ると、静かに俺の方を気遣ってくれている。 「あ、あの…す、すみません、帰ります! きょ、今日は…ほんとにありがとうございまひた…」 二人は少し驚いた様子で 「遅くまで引き止めてしまって、ごめんなさい…大丈夫ですか?」 「え、えぇ…一応、大丈夫れす…」 再び立ち上がる。 げげっ。 想像以上に、足元にきている。 「藤村先生、お送りしますよ」 なんと、前島先生はアルコールは飲んでいなかったらしい。 それにも気づかせないくらいのエスコートぶり。 なんとスマートな…ていうか、俺、飲み過ぎた。 てか、単にオッサンの飲ませ過ぎだ。 どっちでもいい。 とにかくフラフラだ。畜生。
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