第3章 ブルーシート

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「代わりましょうか」 先生が腕まくりをすると割といい筋肉で、とても日本史の教師には見えない。 まあ、俺も人のことは言えませんけど。 役割を変えて、場所移動する。 「よ、いしょ…」 ようやく、荷物を引っ張り出せたその瞬間。 「うお、とっとっとっ」 反動で、先生の全体重が寄り掛かってきた。 「痛っ…」 図らずも、荷物を抱く彼を、俺が抱きとめる格好になってしまった。 「あ、すみません…」 ふわりと香る、シャンプーの香り。 …あの時と…同じ… 建築事務所からの帰りのシートベルト。 ペリエの…記憶…。 人間というものは… 思い出してはいけない時に… 思い出してはいけない事を… 思い出してしまう…哀しい生き物だ。 心拍数だけが、フォーカスされてゆく。 時間が止まる。 恋人でもないし。 ましてや、今は…仕事中だ! ユキ! しっかりしろ! 「ってて…結構きましたね…」 「ちょっとここ、詰め込みすぎかな」 「っつぁ…」 中指を舐めている。 「…大丈夫ですか?」 「…ええ、まあ、はは…大丈夫です」 先生が態勢を変え、見つめ合う格好になる。 「皮がめくれただけなんで…」 中指を見せてもらう。 「あらら…」 結構、痛そうだけど… それにしても… なんて白くて、細い指… ユキ! 良心の声が遠くなる。
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