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現場のコンビニに向かうと、泣き腫らした生徒の横には父親が立ち尽くし、警察官とコンビニの店長らしき人が話している。
そして見かけない若者…と、思いきや。
あの先生…日本語の美しい、新任の前島先生?
「…すみません、大変に遅くなり申し訳ありません。梛谷中学校の藤村です」
「あ、先生…」
「昼間はお疲れさまでした」
黒のセーターにベージュのチノパンの普段着の彼は、髪型も少し、ラフ。
なんかすごくギャップがある。
「たまたま通りがかったので…」
「ええ、お世話かけました。すみません、ありがとうございます」
制服のバッジから見るに、一年生だ。
聞くと漫画を二冊紙袋に入れてそのまま店を出たところを店員に捕まったらしい。
「あぁ、先生でいらっしゃいますか。ご苦労様です」
気付いた警官に挨拶され、俺は最敬礼した。
「先生! 私の監督不行き届きなんです! このバカタレ!」
子どもに殴りかかろうとする父親を、前島先生と二人して羽交い締めした。
「お父さん、改めて後日学校でお話しましょう」
厳しい顔を崩さないまま、警官は言った。
「親御さんともども、深く反省もしているようですし、今日はこのくらいで留めておきましょう。以降気をつけるようにしてください」
「ありがとうございます! 本当に申し訳ありません!」
業務のため店内にいた店長がやって来ると、すかさず俺は最敬礼をした。
「改めまして、うちの生徒が申し訳ございませんでした」
「…先生も大変ですね。これからは気をつけてくださいね」
思いの外優しい言葉に、疲労感と安堵感に襲われる。
俺と先生は、万引きした生徒と父親を、小さくなるまで見送った。
気づけばネクタイがすっかりゆるんでおり、汗だくだ。
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