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怪盗。
その言葉を聞いて何を――誰を思い浮かべるだろう。
夜空を華麗に舞う。
格好いい衣装で誰もを欺き、ターゲットを気付かれずに盗み出す。
あたしはそんな怪盗を目指していたはずだ。
怪盗ポラリスとして活動を初めて、ちょうど明日で一ヶ月経つ。
この一ヶ月で三件のターゲットを盗み出すことに成功した。どれも新聞の一面を飾って、世間の注目を集めたはずだ。多少はミスったけど、決定的なミスは一切していない。
もちろん警察に捕まってなどいない。
けれども、華麗とか格好いいと言われた試しはなく、逆に孤高とかポラリス様とかそんな風に言われて、身近なアイドルのように扱われている。
あたしのファンクラブは活動の初日で結成され、非公認のグッズ―ぬいぐるみはこっそりとネット通販で販売されて、二週間ほどで十万体以上売れたそうだ。
それはそれでいいのかも知れないけれど、私の目指していた物とは何かが違う。
アイドルだとかそんな風に言われたかったわけじゃない。
――あたしは怪盗になりたかったのだ。
華麗にターゲットを盗み出し、夜空を舞うような、そんな怪盗に。
あたしは怪盗ポラリスとして一体どうすればいいんだろ。
住宅地の空にぼんやりと今にも消えそうに光る北極星を見ながら、私はそんな事を思った。
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