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☆☆☆
「理数さん、イエーイ」
「萌衣、イエーイ」
それぞれ元の服装に戻った二人がハイタッチをする。電灯くらいしか明かりのない夜道でのそれは不気味だった。
だが、当人達はそんな事を気にせず、とても晴れやかな顔をしていた。
「しかし、その格好はいくら夜でも目立たないか?」
萌衣は先ほどの軽めの服に、コントラバスでも入るようなバッグを背負っていた。
「いやでも、鞘のまま運ぶわけいかないじゃないですか。私が怪盗ポラリスですって宣言しているか、怪盗ポラリスとバレないにしても、銃刀法違反の疑いで職務質問されて詰みますよ」
「まあ、そうだな……」
それでも何とかならないのかよ、と理数は突っ込みたかったが、成功して明るい雰囲気を壊したくなかったので止めておいた。
「あ、来ましたよ」
萌衣が指差す先にタクシーのライトが見えた。時間が時間なので、二人はタクシーで帰ることにしたのだ。
タクシーが萌衣の真横で止まる。
「黒田様ですね?」
運転手が窓を開けて訊ねる。理数は違いますと言おうとしたが、
「はい、そうです」
と萌衣が肯定したので、素直に萌衣に従うことにした。
「その荷物は後ろに積みますね」
運転手が出てきて、後ろの荷物入れを開けた。そこに萌衣がよっこらしょとおっさんくさい動作でコントラバスのケースを入れた。
戻ってきた萌衣から先に車内に乗り込む。理数も続けて乗り込むと、萌衣が運転手に僕らの出会った駅を告げた。
タクシーのエンジンがかかり、静寂に満ちた夜の住宅街を走り出した。
「なあ、何で家までじゃなくて駅までなんだ?」
不満そうに理数が訊く。すると、
「まだ若いんだから、楽をしないで歩かないと」
と、萌衣は尤もらしい事を言った。本当の理由はきっとは違うのだろう。だが、理数は、
「ああ、なるほど。分かったよ」
と無難に返事をしておくだけに留めておくことにした。駅に着くのは何時くらいになるだろうか。そんな事を思いつつ、理数は窓の外を流れる景色を見ていた。
窓の外に輝く満月はとても綺麗だった。
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