2人が本棚に入れています
本棚に追加
/141ページ
「まあそれはいいんだけどさ、私のうちに来て探し物の」
「断る!」
床にあぐらをかき、腕を組みながら不機嫌そうに理数が即答した。
「じゃあ……」
萌衣が天井を見上げながら何かを考え込む。そして、何かを思い付いたのかポンと手を叩いた。
「手伝いをしてくれたら、私の手作り料理を振る舞ってあげるよ」
それを聞いた理数の目が大きく見開かれる。その反応に萌衣は思わず小躍りしそうになったが、理数が驚いたのは彼女の予想とは逆だった。
「萌衣って料理出来たっけ?」
「それは女の子に言っちゃダメなせりふだよ!」
萌衣が不満そうにぷくーと頬を膨らませる。
しかし、萌衣の料理の腕は絶望的に下手なのである。否、下手という次元ではない。食べられそうな物が出来ればまだましな方で、食べられる材料しか使っていないはずなのに、人外の――人害の物が出来上がる。その場合は料理の見た目からしてもうダメなのだ。
理数は萌衣が過去に作った料理の数々を思い出し、顔をしかめた。
……嫌な記憶しかなかった。
「わかったわかった。手伝うから料理は作らなくて良い」
理数が両手を挙げて降参する。
「ありがとう、りす。……あれ? 料理を作らなくて良いってどういうこと?」
「まあそのあれだ、僕らの間に貸し借りは無しってことだ」
苦し紛れに理数は誤魔化す。萌衣はしばらく疑いの視線を送っていたが、「りすりすが手伝ってくれるならいいか」と呟いた。どうやら納得したようだ。
「次その名前で呼んだら、手伝ってやらないからな」
脅すような口調で理数が萌衣を睨み付ける。
「じょ、冗談だって」
怯えるような顔で萌衣は後退りした。
否、ドン引きした。
「それで探し物ってのは一体何なんだよ?」
玄関で百均製の真っ赤なサンダルを履きながら理数が尋ねる。
「あれだよ、あれ」
萌衣が何かを思い出したそうに理数から顔を逸らして、空中を切るように手を振る。
「あれじゃわからないけど、まあ思い出したら言ってくれよ」
ガチャリ。
理数が鍵を回して玄関の扉を開ける。
それと同時にギラギラと凶悪な日差しが降り注いだ。
最初のコメントを投稿しよう!