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1.怪盗ポラリスは幼馴染みに油断している。
「りーすーりーすー」
五月五日の午後一時。
黒熊家の玄関に元気の良い女の子の声が響き渡った。
ドタドタドタ。
家の中の階段を誰かが慌てて降りる音がする。
「あ、りすりす、おはよう?」
玄関にいた小柄な女の子が室内に向かって手を振る。
彼女はスカートにネズミの国のキャラが入った七分袖のシャツと、とてもラフな格好をしていた。
背は百五十センチくらいで、体型はスタイルが良く、もう少し背があれば……という感じだ。そして、度の入った黒渕の眼鏡を掛け、髪は動きやすいようにか、新体操の選手のようにお団子頭にしていた。
「その名前で僕の名前を呼ぶんじゃねー!!」
室内から玄関へと走ってきた部屋着姿でボサボサ頭の黒熊理数は、拳を握りしめてそう言った。
小柄な少女に対して理数は大柄だった。
百八十五センチでがっしりとした印象を受ける体。
普通といった感じの顔に、今は眠そうで半分閉じているが、普段は真剣な眼差し。
色素の薄い黒髪は右側で短いポニーテールを作っていた。
言っておくが理数は男である。
「アハハ、冗談だって」
彼女が悪戯っぽく微笑むのを見て、理数はため息ついた。
「それで萌衣は祝日の朝から僕に一体何の用だよ?」
ボサボサ頭をかきむしりながら訊ねると、萌衣と呼ばれた少女――猫星萌衣は、呆れた顔をした。
「朝っていうかもうお昼過ぎだけどね」
「嘘、だろ……」
理数は衝撃を受けたように後ろへと体勢を崩す。
「僕の休みを返してくれぇぇぇええええ!!」
黒熊家の玄関に黒熊さん家の息子の声が虚しく響く。あまりの空しさに理数は泣きそうになった。
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